羽生ノート

羽生一家玉組座長・羽生まゆみが気儘に綴る日々雑感です。
謝辞

打上げを終えて、朝6時には家へたどり着いた。

新宿駅で、小田急線がまだ動いていなかった雅紀が京王線の改札口まで送ってくれた。

「雅紀さんがまだこっち見てますよ」

佳美の言葉に振り返ると、確かに雅紀がこちらを見ていた。この時の光景を、雅紀の疲れた笑みを、私はこの先ずっと忘れないのではないかと思う。

 

『サンタクロース〜』は曰くつきの作品である。

平成15年、劇場まで押さえていた次回公演がいきなり中止になった。主演俳優が劇団員に根回しして、私不在の劇団ミーティングで決定したのである。どうやら役者たちは劇場(六本木アトリエフォンティーヌ)が気に入らなかったらしい。すでにプロローグを書き終えていた私の悲しみと怒りは大きかった。私はそのまま書き続けた。玉組では打たず、劇団外の役者を集めて羽生プロデュースで上演し、私を裏切った役者達に復讐してやる決意だった。私はものすごく心が狭いのだ。

しかし結局、劇団で打った。新宿サンモールスタジオから「10日間のロングラン公演を打たないか」という打診があったからである。サンモールスタジオで10日打つなら、堂々と玉組の看板を掲げて打ちたいと思った。

翌平成16年6月の『いななきの森』(中野ザ・ポケット)を挟んで、同年12月に『サンタクロース〜』(新宿サンモールスタジオ)を上演した。そして千秋楽を終えた劇場で、「いつか必ず再演する」と宣言してEricoを泣かせたのは、DMの案内文に書いたとおりである。

稽古場からひどかった。役者の降板があり、降板すると脅迫され、配役に失敗し、主演との関係もよくなかった。私は稽古場で荒れに荒れた。

与えられた条件のなかで力は尽くした。失敗作だったとは思わない。たくさんのお客様にほめてもいただいた。

それでも‥‥‥それでも、悔いは残った。

誰のせいでもない。怒りで燃え上がっていた私自身のせいだと、今ではわかっている。

というわけで今回は、満を持しての公演だったのである。あれから13年の月日が必要だったわけだ。そして今、やっと悪夢から目覚めた。頑張った役者たちには心から感謝したい。悪夢の初演を塗り替えてくれてありがとう。

というわけで、迷ったが今回の謝辞は役者たちに贈ることにした。

役者に礼を述べるなんてルール違反だから、入力途中で指が腐るんじゃないかという危惧があるが、頑張る。

 

まず、なんと言っても奥野優太をほめておきたい。

頑張った。新人はたいがい私のダメにへこたれる。優太だってへこたれたはずだが、彼は私の前で決してへこたれた様子を見せなかった。新人がへこたれてくると、そして「無理だ」と見極めると、たいがい私は「まとめの作業」に入る。できることだけをやらせて、残りは周りの役者にこっそり芝居をつけてシーンを乗り切るのだ。しかし今回ばかりはそんなごまかしをやるわけにはいかなかった。夏生はこの物語の芯である。私はリスクを背負ってでも諦めるわけにはいかなかったのである。

そしてなんと、優太は突然化けた。芝居をするようになったのは11月の終わり頃、5日間の通し稽古に入る1日か2日前のことだった。奇跡のようだった。

本番の台詞で好きだったのは、「大丈夫さ、おまえなら」かな。稽古場で千本ノックしたよねえ。できなかったよねえ。「台詞カットする」と脅したよねえ。カットしなくて良かった。私もどこかの男子に「おまえ」って呼ばれたいと思った。

 

まさか佳美がこんなに頼れる女優に成長するとは。佳美に感謝するというより佳美を紹介してくれた、お友達のみっちゃんにありがとうである。

負けず嫌いなので、そこを刺激するのがチョー面白い。だいたい麻理枝とのシーンで多いのだが、「こういうふうにやって」とダメを出して二人ができないときは、「元に戻す。これまでどおり」と言うことにしている。すると佳美の負けず嫌いに火が着く。顔が、ウインっ! となるのだ。私は笑いを噛み殺すのに必死だし、雅紀やEricoは「あ〜あ、また羽生さんが遊んでる」という顔をする。翌日、「あの、解消してきたので見てもらっていいですか」と二人でやってくる。私は内心ニンマリするが顔には出さない。あー楽し。

「八歩はバイオリンを弾くの?」と「ごめんなさい」が好き。他にも好きな台詞や上手いシーンは山とある。ありすぎて書ききれない。佳美の上手さをひと晩じゅう喋れる。

佳美っ、ほめすぎたけど調子に乗んなよっ!

 

麻理枝。仕上がるのが遅すぎる。麻理枝が稽古場でもっと早く芝居するようになれば、麻理枝自身も、また私のホン書きも違う可能性が拡がる。前回も、前々回も、前々々回も、前々々々回も同じ事を言っている。

次の稽古場で、今の麻理枝でスタートできればすばらしいことになるだろうが、でもきっとまた振り出しに戻っているに違いない。私は双六ゲームやってんじゃないぞっ。

しかし麻理枝の良いところはへこたれないところだ。役者たちはそれぞれがそれぞれである。ある日突然化ける者もいれば、一歩一歩化けていく者もいる。なんとか私が生きているうちに麻理枝を化かしておきたいものだ。化けた麻理枝を、私自身が見たい。本番、優太や佳美と生き生き芝居していた麻理枝を、稽古場から見たいと願う。

エピローグ、「ねえ、小鳥」という鹿乃子の台詞に「え?」と振り返る小鳥が好きだった。「ああ麻理枝、芝居してるな」と思う瞬間だった。

 

研は今回の成長株だ。つーか、成長して現れた。大人になったと感じたのは私だけではなかったようで、KAZUHOやエアポからも同じ感想を聞いた。芝居も大人になっていたが、早替えの介錯から転換の段取り、取れたドアノブの処理まで、八面六臂の活躍だった。

ヤングチームとのシーンがある。バイオリンを前に緊張している子供達とのやり取りだ。稽古が始まったばかりの頃、私は研の芝居にダメを出したのだが、研はダメどおりにやらなかった。自身の考えた芝居にこだわりがあるように見えたので、私はそのまま様子を見ることにした。結果、そこは私の最も好きなシーンの一つになった。

研のこだわりはもしかしたら私の勘違いだったのかもしれない。でも少なくとも、私はそこで研を信用したのだ。なぜ信用したかというと、研が稽古の早い段階から芝居をしていたからだ。役者が稽古場でぐずぐずしていてはいかんのだ。信用と不信用はそこで分かれる。

というわけで子供達とのシーン、「おまえら、何やってる?」が好き。

研、ありがとう。野枝子役(雪夜の女優版)の女優が見つからなくて幸運だった。やっぱり私には演劇の神様がついていると思った。

 

今回の『サンタクロース〜』が初演を凌いだとすれば、もっとも大きな功労者はトミーだと、実は私は思っている。

告白すると、『サンタクロース〜』のホンで唯一心配だったのが、専制国家エピソードだった。初演の際に唐突感を覚えたからである。なーんかウソ臭い。しかし今回、唐突感はまるでなかった。プロローグのサンタクロース(殺された異国のバイオリニスト)にリアリティがあったからだと思っている。

初演のサンタはいかにも若すぎた。「年の功」の深みを、「年の功」のお手本を、トミーは見せてくれた。真摯に芝居を続けてきたゆえの「年の功」である。

いっちゃん最初の台詞、すっかり五人組になっている「マジ?」が好きだった。あと、トミーの本物のお髭が好き。

旧友トミーに心からの感謝を。

 

千歳。二日目に大トチリをやって、激怒した私は客より先に劇場を出て、家に帰ってしまった。翌日は朝から怒鳴りまくり投げまくりの稽古で、久々に劇場で暴れた。そのせいで公演が終わってから今日までずっと千歳のことを考えている。私は千歳が、なぜか女優達の次に可愛いのだ。ぐだぐだ千歳のことを考えていたから今日まで謝辞が書けなかった。羽生ノートが更新されなかったのは千歳のせいである。

ビックリ仰天なのは千歳の評判が良いことだ。あんな大ポカをやったくせになんてことだ。今回の温太は、千歳の才能である「色気」が上手に醸し出たのだろう。筋トレの効果が一番出ていたのも千歳で、スタイルがシュッとしたせいで衣装がとてもよく似合っていた。登場シーンは、私も毎回ハッとなったくらいである。

それにしても千歳は強くなった。私のダメに、ついにくじけなかった。なのでプッシュアップもくじけず続けてくれることを願う。

好きだった台詞は「八歩もどうぞ。少年も。いっぱいあるから」かな。

千歳、ありがとう。そして、ごめん。「雅兄ィのためじゃない。俺たちは羽生さんのために集まっているんだ」という、打上げの席での嘆きに対して。

 

初演の大きな悔いの一つが卓次のキャスティングだったから、卓次トラウマを昇華させてくれた純一には心からありがとうが言いたい。胸ときめく卓次だった。

13年間、胸が痛くなるほど卓次のことを考えた。卓次をちゃんと舞台の上で見たかった。ホンを書いても目の前にそれが立ち上がらなかったら、私にとっては何の意味もない。私は劇作家になんかなりたくない。立ち上げてなんぼの、私は芝居のホン書きなのだ。

ラストの台詞は別扱いとして置いておく。今回私が好きだったのは、プロローグの「俺?」と、二場の「気を付けた方がいいぞ」である。それと稽古場で増えた「赤い」もだな。あと100回くらい純一の卓次が見たい。

そうそう、私の役者の一人、田川ちかと終演後のロビーでばったり会った。

「じゅんじゅんは玉組に出たときだけかっこいい」

今回の作品でもらったすべての感想の中で、いや、これまでの作品全部を合わせても、最も嬉しい褒め言葉だった。こんなに気持ちの良かったことはない。

 

愛する雅紀。と書いただけで涙が浮かんでくる。クールに別れると決めていたのになかなかそうはいかない。未練がましい女に、しがみつく女に、かっこ悪い女になりたくない。

八歩を、詩人にしてくれてありがとう。まさか「書く作業」を舞台の上で見せてもらえるとは予想していなかった。まるで明治の文豪のように、文机の上に原稿用紙を広げて八歩は、万年筆で、青いインクで詩を書いた。

雅紀との仕事を、『サンタクロース〜』で〆ることができて良かった。私にもう、思い残すことはない。あなたのおかげで私は悔いのない芝居人生を送ることができた。感謝している。

心にひっかかるのはたった一つだけ。雅紀という主演を得たことで私は良い仕事をすることができたが、はたして雅紀にとってはどうだったのだろうと考える。私は雅紀にとって良い演出家だったのだろうか。

しかし今は考えまい。考えると泣けるばかりだ。

最も好きな台詞は「ケンタにしよう。チキンフィレサンド」である。ごめん、私が諦めるのが早かった。もっと粘るべきだった。

でも雅紀、私はあなたが喋った今回の台詞を全部、全部決して忘れない。

私の主演俳優に心からの感謝を。その圧倒的な「才能」と「努力」への敬意とともに。

 

Ericoへの感謝はたったひとつだ。けれどそれは、他へ捧げる100個の感謝より大きい。

Erico、帰ってきてくれてありがとう。

 

今回もまた、多くのスタッフたちのお世話になった。

照明/松本伸一郎、音響/坂田ひろの&松丸恵美、舞台監督/稲毛健一郎、舞監助手/エアポート、舞台美術/向井登子。長い長い付き合いの彼らへの愛は役者らへのそれに勝るとも劣らない。私の芝居はあなた方の才能あってこそである。こうべを垂れて、私のスタッフに愛と感謝を捧げる。その才能と、心意気と、私への愛に対して。

名前をあげて感謝しなければならない方々はたくさんだ。今回は本来こっちが感謝してほしい役者に言わないでもいいありがとうの字数を割き、おかげでスタッフ全員の名前を記すことが出来ない。心からお詫び申し上げたい。あなた方の献身に甘えて、私は劇場で至福の時を過ごせているのだ。ありがとう。

 

ご来場いただいたお客様に心からのお礼を申し上げます。

たくさんの方にほめてもいただき、こんなに幸せだった公演の日々はありません。当日パンフなどに書きましたとおり杉山との別れがありましたので、玉組が今後どのようなことになるのか、私自身が闇の中の状態でございます。

けれど元気なうちは私が芝居と離れることなど想像のほかですので、おそらくなにかしらの形で、みんさんに私の拙いお芝居をお届けできるのではないかと考えております。小さな公演になるかもしれませんが、引き続きのご贔屓を賜りたく、謹んでお願い申し上げます。

ご来場、誠にありがとうございました。

 

そして最後に‥‥‥

うっちぃに変わらぬ愛と感謝をこめて。

カレンダー、売り飛ばしちゃってごめんなさい。

でもあのカレンダー、玉組を最も長く深く愛してくれているファンの手元に行っています。『母方のイトコ』から観ている、ミケのことも大好きなファンよ。

うっちぃ、ありがとう。いつかまた会えるといいな。そのときはまた私を抱きしめてね。

| 羽生まゆみ | サンタクロース イン トーキョー | 05:46 | - | -
初日、開く(稽古場日記11)

初日の幕が上がりました。

ご来場の皆さま、本当にありがとうございました。

良い初日だったと、思います。初日のバタバタ感は隠しようもなく客席に伝わってきましたが、それを含めて良い初日でした。

 

さあ、二日目だ。転換稽古するぞ! 

転換をあと10秒ずつ縮める。

ストップウォッチ片手にわめくぞっ。

 

快晴だ。ベランダから富士山が見える。パンッパンッと柏手を打っておいた。

出発!

| 羽生まゆみ | サンタクロース イン トーキョー | 09:13 | - | -
ついに明日、稽古打ち上げ(稽古場日記10)

早かった。あっという間に打ち上がった。

本日は4回目の通し稽古。相変わらず台詞のトチリが多くて少しガッカリした。完璧なものを、結局観せてもらえないまま稽古場での稽古を終えるのだろうか。明日稽古場で観る最後の通しが怖い。ガッカリしたくない。

しかし芝居自体は問題なく面白い。2時間近い芝居だが長さはまったく感じない。昨日も書いたが、お客さんが少ないらしいのが本当に悲しい。今では少なくなった「ストーリー芝居」を、たくさんの人に観てもらいたい。起承転結の妙を、物語の面白さを、楽しんでもらいたい。

丁寧に、丁寧に、創ってきた。手を抜いたところや、曖昧なままやり過ごしたところは微塵もない。そう言い切ることに何の後ろめたさもない。

そして何よりも、隙なく稽古した役者たちの芝居がどんなものであるかを、知ってほしい。

本番でトチることはないので、皆さまご安心を。

 

また今日もチョコレートをひと箱、ぺろっと食べた。これに関しては若干の後ろめたさはある。

稽古帰り、エアポと佳美と三人で寄った喫茶店でピザトーストを食べた。22時半に。ものすごい後ろめたさに現在うちひしがれている。

 

さあ明日、最後の稽古場を楽しみたい。

| 羽生まゆみ | サンタクロース イン トーキョー | 01:53 | - | -
通し稽古(稽古場日記9)

書けなかったなあ今回、羽生ノート。

ほんと、ごめんなさい。体力維持を最優先にしてきたので「何があっても5時間は寝る!」を命題としてきたのだ。

おかげでけっこう元気だ。稽古後「疲れた」という台詞はこれまでで一番たくさん口にしているが、ひと晩寝ればわりあい回復している。「寝る」と同じくらい「食う」も実行した。稽古から帰って夜中にヤキソバほおばったりしている。体力維持どころか身体に悪いのはわかっているが、エネルギー補給したかった。空腹が恐ろしい。体重はちっと増えたが、「減るよりは良い」と自分に言い聞かせている。

しかしタガが外れるとはこのことで、稽古場でお菓子を食べまくっているのはいくらなんでもまずい。今日はポテチを、一枚だけ佳美にお裾分けしただけで残り全部食べた。チョコは誰にもあげずにひと箱食べた。Ericoに「チョコの空箱を写真にとってトレーナーにメールする」と脅された。ダメダメ、蹴られる。

 

通し稽古が始まった。玉組では5日間続く。5回通してから劇場へ入るわけだ。初日を観て、大丈夫だと安心した。アタフタ感丸出しで台詞はとちりまくっていたが、テンポが良かったからね。

二日目、三日目と調子を上げて、すでに今日、不安はまったくない。一時は絶望的にもなったが結局仕上げた。どんなもんだい。

少し前の絶望がウソのようだ。あのときは、いったい何が悪かったのだろうと死ぬほど考えた。私の稽古場指揮が悪かったのだと思った。自分では気づかないうちに、たらたらした稽古場になっていたのだと。

反省して損した。全然私のせいじゃなかった。あー良かった。

 

チケットが売れていないらしい。今日まで訊くのが怖くて訊けなかったのだがそういうことらしい。悲しいなあ。なんでだろうなあ。こんなに手を抜かない芝居を創っているのに。こんなに美しい舞台なのに。美術も照明も、なにもかもが美しい芝居なのに。こんなに自信があるのに。

悲しいなあ。悲しいなあ。なんでだろうなあ。

 

悲しいからもう寝る。

| 羽生まゆみ | サンタクロース イン トーキョー | 00:45 | - | -
神様逃げた?(稽古場日記8)

短くても羽生ノートは書いていくと言ったのに、やっぱり無理だった。当日パンフやDMの原稿書きに追われている間に、とんとご無沙汰になってしまった。いかんなあ。

気付けば2週間後はもう初日ではないか。うっそ! てな感じである。

最近は役者たちに「仕上がるよね?」と尋ねては「大丈夫です」と言わせて安心している。もっとも私にむかって「もしかしたら仕上がらないかも」とか、「う〜ん、ビミョー」などと言える人は居ないだろう。

当然ながら苦労はしている。面白くないのに解決策が浮かばないというシーンがバラバラあって、気が狂いそうになる。何をどうしていいのかわからないのでダメが出せないのだ。

先だっては稽古場に来た照明の松本に「どうしていいのかわからない。私の勘は鈍っている。神様が逃げたのかも」とグチって、「羽生さんのそんな弱気な発言初めてきいた」などと笑われた。

 

そして昨日の稽古。そんなダメシーンの一つをやった。

なんだ、私のせいじゃなかった。役者のせいだった。やっぱりそうか。うすうすそうじゃないかとは思っていたのだ。

ダメはどんどん出る。何が悪いのか、どうすればよくなるのか、ぽんぽん見えた。これまで見えなかったのは、役者のテンションが低いせいだったのだ。あー良かった。あやうく自分のせいにするところだった。あぶねェ、あぶねェ。

 

三場のカット作業をすると言ったら稽古場の空気が、ずーんと重たくなってあせった。

これまでもカット作業は必ずあったし、でもみんな、少なくとも表面上は明るく受け入れていたのにどうしたのかしら。早く決断しすぎたのかね。

そういえば稽古前にマックに入ったら、三場メンバーが作戦会議及び練習をしていた。おいおい、マックで稽古かよ。

仕切りを隔てたとなりに私は座っていたのだが、うるさくてかなわない。「静かにしてください」とクレームつけてやった。

みんな、頑張っているのだ。マックで頑張った4時間後にカットではね。でも仕方がない。カットは「いつ実行するか」の問題だけである。どうせやらねばならん。

 

さあ、ラストスパート。

今日も稽古だ。

| 羽生まゆみ | サンタクロース イン トーキョー | 02:53 | - | -
雅紀、私を取り扱う(稽古場日記7)

昨日は役者が疲れ満載のヨレヨレ芝居をしており、私はちょー不機嫌であった。

皆身体のキレが悪いし、顔もゲロ〜ォとなっていた。特にEricoなんぞ急激にやつれてトカゲ女の顔だったし。わしゃわしゃした付け睫毛だけが元気だった。あー怖い。

こんな情けない状態で稽古を続けても仕方がない。芝居は永遠に完成しないだろうとイライラしていたら、本日はまあまあの出来だった。Ericoの顔もいくらか回復していた。

 

役者たちより30分遅れて稽古場入りすると、すでに稽古が始まっていた。役者たちで話し合いながら、大騒ぎシーンの段取りをつけていたようだ。

雅紀がおはようの挨拶もそこそこに、

「すみません、もう少しやらせてください」

私は頷く。

「いいよ」

なかなか気合いの入った稽古で、私は口を挟まずながめていた。

役者それぞれが意見を出し合いながらシーンを創っていく。大昔の玉組ではあまり見なかった光景である。こういった違いは、主演の気質の違いだと私は思っている。主演は芝居が上手けりゃそれでいいというわけにはいかないのである。

雅紀は玉組歴代の主演の中で、最も立派にチームを引っぱる。私の取り扱いも一番上手い。

 

帰りの電車に乗る間際、雅紀が私に話があると言う。

「いやだ」と私は言った。どうせ悪い話だ。

「まあ、まゆみさんにとっては悪い話だとは思いますけど‥‥‥」

「聞きたくない」

「じゃあ明日にしますか」

雅紀らしいすっとぼけた台詞である。明日に延ばせば良い話になるならそうするが、悪い話は悪い話のままである。

「気になって眠れないでしょーよ。いったい何なの?」

「明日どこやりますか」

「2場」

「実はケンケンが遅刻します」

「‥‥‥」

私がバクハツする前に雅紀は急いで言った。

「2場やりましょう。ケンが退場したところから」

これが作戦なのかなんだかわからないのだが、雅紀の真面目な顔のすっとぼけに私はいつも負けてしまうのである。

すでに怒りは半減していたが、せめてもの抵抗はとりあえずした。

「2場やんない。どこやるかわからん。私の気分次第」

苦笑する雅紀の顔があった。

で、結局今日は2場をやった。上記に書いたように役者たちで2場の稽古をしていたから仕方ないではないか。

 

さあ、明日の稽古は8時間ぶっ続けの長丁場だ。

というわけでもう寝る。おやすみ。

| 羽生まゆみ | サンタクロース イン トーキョー | 10:57 | - | -
なんと、あと一ヶ月で初日(稽古場日記6)

来月の今日はもう初日である。まずい。不安でいたたまれなくなる。

軽快に進んでいるとは言い難い。たぶん、入れ込み過ぎているところに、私自身の問題がある。

『サンタクロース〜』のことはこの13年、あまりにも考えていたので、イメージが出来上がりすぎているのではなかろーか。

新作だと役者のやっていることがいつの間にか「正解」になるが、今回は私の頭の中にあるものと役者の芝居が違うとすぐ「不正解」にしてしまう。いかん。いかんのよ。これでは良いお芝居にはならない。

まずい。やんわり吐き気がある。プレッシャーのせいに違いない。

よく考えねば。「落ち着け」と役者にわめいているが、最も落ち着いていないのはたぶん私なのだろう。

 

役者たちが早くも煤けているのが心配だ。クイックルワイパーでお掃除したい。特にお顔をサワサワしたい。サワサワしてホコリを落としたい。私の吐き気はホコリのせいかもしれない。きっと「役者のホコリアレルギー」なのだ。

そうそう、急に話は変わるが、私の稽古場入りが早すぎると雅紀にクレームつけられてびっくりした。

「ええーっ!」

「みんな言ってます」

「うっそ。てっきり役者たちは私の顔見ると嬉しいのかと思っていた」

「まあ‥‥‥えっと‥‥‥嬉しいですけどね」

初立ちの台詞よりしどろもどろしていた。

 

というわけで私は明日、19時入りだよ。

一場のラスト、アダルトチームが役者だけで段取りたいんだってさ。

久しぶりに駅前のケンタでゆっくりお茶するよ。チキンフィレサンド食べて行く。

 

眠い。もう寝る。

おやすみ。

| 羽生まゆみ | サンタクロース イン トーキョー | 00:46 | - | -
午後9時、絞りカス(稽古場日記5)

いやあ、疲れた。昼間から一日稽古場に居るとさすがに堪える。21時を過ぎるとほとんど絞りカス状態だ。もう一滴も汁らしい汁は出ないってかんじ。

それでも楽しかった。プロローグは非常に良かった。トミーのサンタクロースは年の功の存在感があるから、そのせいかプロローグは初演とはかなり雰囲気の違うものになっている。プロローグの役者たちはみんなよくやっていると思う。

Ericoがとても楽しそうだ。今回はEricoをケチョンケチョンにいじめてやるつもりだったのだが、今のところ集中してやっているのであまり文句を言う隙がない。残念だ。プロローグは実年齢の半分以下の役を演じているがとても可愛い。

正直言えば、Ericoが楽しそうだと私はうれしい。遙か昔の日々が、劇団を揚げたばかりの日々が帰ってきたようだ。時々ヘボ役者だった頃のEricoが今のEricoに重なって、二重写しに見えることがある。

いかんいかん。まだ始まったばかりだ。今からほめていたらいずれしっぺ返しをくらう。

 

麻理枝が泣いちまった。麻理枝が弱って泣いたのは初めてかも。

麻理枝、ダメを出されるのは幸福なことなのだ。それを理解してくれていると信じている。

 

さあ、明日も稽古だ。早く寝て体力を回復せねば。

おやすみ。

| 羽生まゆみ | サンタクロース イン トーキョー | 01:00 | - | -
シャーペン(稽古場日記4)

稽古開始から2週間が過ぎた今日、ついにシャーペンと台本が飛んだ。

昨日「明日は2場をやる」と予告しておったのだが研のバカタレが遅刻したせいでできなかった。で、急遽3場をやったらまったく台詞が出てこずバクハツしたという次第である。2場ばっか必死で台詞入れていたのだと思うと脳味噌がヒンヤリして、それから一気に沸騰した。おかげでシャーペンが壊れた。研のバカ。

二度と予告なんかするものかと思ったのだが、また今日してしまった。明日は久方ぶりにプロローグ。前回より台詞が出なかったり芝居が壊れていたらまたバクハツする予定だ。本番までにシャーペンが何本壊れるか楽しみである。

 

アップの筋トレもだいぶ慣れてきたようではあるが、どうだろ。慣れてきてごまかし方が上手になってきた。そんなとこばっか上達してどうする。

今日昼間やってきた私のトレーニングを見学したら一同引くね。怒鳴られまくって、最後のプッシュアップや腹筋をやる頃はほとんど半泣き状態だった。それでも根性振り絞っていたぞ私は。結局は根性だと思う。

みんな早く覚えてね。昨日Ericoと「みんなが上手になったらサーキットトレーニングしよう」と話し合った。楽しいぞーォ、サーキットは。ゲロ吐きそうになる、つーか吐いたりするけど、ヤッタ感はものすごく味わえる。

 

明日は午後から夜までずーっと稽古場だわ。穏やかに過ごしたいね。

短いけどこのへんで。

| 羽生まゆみ | サンタクロース イン トーキョー | 01:41 | - | -
稽古着(稽古場日記3)

いつもと同じように、プロローグから順番に立ち始めた。まず最初から最後まで一日一場ずつ無理やり立ち、その後落ち着いて返していくというのが玉組のやり方である。というわけで四日かけて三場まで進んだ。

すでに一回バクハツしている。芝居の出来とは関係がない。優太が稽古着を忘れてきたからである。まさか最初のバクハツ原因が稽古着とは。

役者たちには稽古場に入る際は日常を脱ぎ捨てろと言ってある。これはもちろん「心」のことだが、見た目だって同じように重要だ。日常を引きずったままの役者に稽古をつけることはできない。

というわけで優太が登場するシーンはすっ飛ばした。可哀そうだったがしかたがない。芝居の稽古をなめてはいかんのだ。

稽古場からの帰り道、雅紀が詫びた。

「すみません。俺が気が付かないといけなかったのに」

雅紀は同じ理由で私に叱られた過去があるらしい。びっくりした。叱った方は忘れても叱られた方は忘れていないということ。

翌日、千歳も同じ理由で叱られたことがあると知った。覚えていない。ここに至ると笑っちまったね。みんな同じ失敗をやらかして同じように叱られている。どうも私は稽古着に関しては容赦がないようである。

 

翌々日は、劇団ピンクノイズの初顔合せ兼初稽古だった。

稽古場に向かいながらEricoに訊いた。

「まさか稽古着を持ってきてないってことはないよね」

「大丈夫です」

持ってきてなかった。

ええーーっ? 苦笑するしかない。そして二日前にバクハツした一件を話した。

まあよい。本格的な稽古はこれからじゃ。大遅刻した役者も居たし、今日のは稽古じゃなくて他の何かだったことにしよう。

と、こんなふうに怒らなかったのは、楽しかったからである。良い役者たちだった。

 

稽古場日記はなるたけ書いていきます。

ただし短いし、推敲もできないと思いますが大目に見て下さいませ。

| 羽生まゆみ | サンタクロース イン トーキョー | 10:11 | - | -
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