羽生ノート

羽生一家玉組座長・羽生まゆみが気儘に綴る日々雑感です。
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謝辞

打上げを終えて、朝6時には家へたどり着いた。

新宿駅で、小田急線がまだ動いていなかった雅紀が京王線の改札口まで送ってくれた。

「雅紀さんがまだこっち見てますよ」

佳美の言葉に振り返ると、確かに雅紀がこちらを見ていた。この時の光景を、雅紀の疲れた笑みを、私はこの先ずっと忘れないのではないかと思う。

 

『サンタクロース〜』は曰くつきの作品である。

平成15年、劇場まで押さえていた次回公演がいきなり中止になった。主演俳優が劇団員に根回しして、私不在の劇団ミーティングで決定したのである。どうやら役者たちは劇場(六本木アトリエフォンティーヌ)が気に入らなかったらしい。すでにプロローグを書き終えていた私の悲しみと怒りは大きかった。私はそのまま書き続けた。玉組では打たず、劇団外の役者を集めて羽生プロデュースで上演し、私を裏切った役者達に復讐してやる決意だった。私はものすごく心が狭いのだ。

しかし結局、劇団で打った。新宿サンモールスタジオから「10日間のロングラン公演を打たないか」という打診があったからである。サンモールスタジオで10日打つなら、堂々と玉組の看板を掲げて打ちたいと思った。

翌平成16年6月の『いななきの森』(中野ザ・ポケット)を挟んで、同年12月に『サンタクロース〜』(新宿サンモールスタジオ)を上演した。そして千秋楽を終えた劇場で、「いつか必ず再演する」と宣言してEricoを泣かせたのは、DMの案内文に書いたとおりである。

稽古場からひどかった。役者の降板があり、降板すると脅迫され、配役に失敗し、主演との関係もよくなかった。私は稽古場で荒れに荒れた。

与えられた条件のなかで力は尽くした。失敗作だったとは思わない。たくさんのお客様にほめてもいただいた。

それでも‥‥‥それでも、悔いは残った。

誰のせいでもない。怒りで燃え上がっていた私自身のせいだと、今ではわかっている。

というわけで今回は、満を持しての公演だったのである。あれから13年の月日が必要だったわけだ。そして今、やっと悪夢から目覚めた。頑張った役者たちには心から感謝したい。悪夢の初演を塗り替えてくれてありがとう。

というわけで、迷ったが今回の謝辞は役者たちに贈ることにした。

役者に礼を述べるなんてルール違反だから、入力途中で指が腐るんじゃないかという危惧があるが、頑張る。

 

まず、なんと言っても奥野優太をほめておきたい。

頑張った。新人はたいがい私のダメにへこたれる。優太だってへこたれたはずだが、彼は私の前で決してへこたれた様子を見せなかった。新人がへこたれてくると、そして「無理だ」と見極めると、たいがい私は「まとめの作業」に入る。できることだけをやらせて、残りは周りの役者にこっそり芝居をつけてシーンを乗り切るのだ。しかし今回ばかりはそんなごまかしをやるわけにはいかなかった。夏生はこの物語の芯である。私はリスクを背負ってでも諦めるわけにはいかなかったのである。

そしてなんと、優太は突然化けた。芝居をするようになったのは11月の終わり頃、5日間の通し稽古に入る1日か2日前のことだった。奇跡のようだった。

本番の台詞で好きだったのは、「大丈夫さ、おまえなら」かな。稽古場で千本ノックしたよねえ。できなかったよねえ。「台詞カットする」と脅したよねえ。カットしなくて良かった。私もどこかの男子に「おまえ」って呼ばれたいと思った。

 

まさか佳美がこんなに頼れる女優に成長するとは。佳美に感謝するというより佳美を紹介してくれた、お友達のみっちゃんにありがとうである。

負けず嫌いなので、そこを刺激するのがチョー面白い。だいたい麻理枝とのシーンで多いのだが、「こういうふうにやって」とダメを出して二人ができないときは、「元に戻す。これまでどおり」と言うことにしている。すると佳美の負けず嫌いに火が着く。顔が、ウインっ! となるのだ。私は笑いを噛み殺すのに必死だし、雅紀やEricoは「あ〜あ、また羽生さんが遊んでる」という顔をする。翌日、「あの、解消してきたので見てもらっていいですか」と二人でやってくる。私は内心ニンマリするが顔には出さない。あー楽し。

「八歩はバイオリンを弾くの?」と「ごめんなさい」が好き。他にも好きな台詞や上手いシーンは山とある。ありすぎて書ききれない。佳美の上手さをひと晩じゅう喋れる。

佳美っ、ほめすぎたけど調子に乗んなよっ!

 

麻理枝。仕上がるのが遅すぎる。麻理枝が稽古場でもっと早く芝居するようになれば、麻理枝自身も、また私のホン書きも違う可能性が拡がる。前回も、前々回も、前々々回も、前々々々回も同じ事を言っている。

次の稽古場で、今の麻理枝でスタートできればすばらしいことになるだろうが、でもきっとまた振り出しに戻っているに違いない。私は双六ゲームやってんじゃないぞっ。

しかし麻理枝の良いところはへこたれないところだ。役者たちはそれぞれがそれぞれである。ある日突然化ける者もいれば、一歩一歩化けていく者もいる。なんとか私が生きているうちに麻理枝を化かしておきたいものだ。化けた麻理枝を、私自身が見たい。本番、優太や佳美と生き生き芝居していた麻理枝を、稽古場から見たいと願う。

エピローグ、「ねえ、小鳥」という鹿乃子の台詞に「え?」と振り返る小鳥が好きだった。「ああ麻理枝、芝居してるな」と思う瞬間だった。

 

研は今回の成長株だ。つーか、成長して現れた。大人になったと感じたのは私だけではなかったようで、KAZUHOやエアポからも同じ感想を聞いた。芝居も大人になっていたが、早替えの介錯から転換の段取り、取れたドアノブの処理まで、八面六臂の活躍だった。

ヤングチームとのシーンがある。バイオリンを前に緊張している子供達とのやり取りだ。稽古が始まったばかりの頃、私は研の芝居にダメを出したのだが、研はダメどおりにやらなかった。自身の考えた芝居にこだわりがあるように見えたので、私はそのまま様子を見ることにした。結果、そこは私の最も好きなシーンの一つになった。

研のこだわりはもしかしたら私の勘違いだったのかもしれない。でも少なくとも、私はそこで研を信用したのだ。なぜ信用したかというと、研が稽古の早い段階から芝居をしていたからだ。役者が稽古場でぐずぐずしていてはいかんのだ。信用と不信用はそこで分かれる。

というわけで子供達とのシーン、「おまえら、何やってる?」が好き。

研、ありがとう。野枝子役(雪夜の女優版)の女優が見つからなくて幸運だった。やっぱり私には演劇の神様がついていると思った。

 

今回の『サンタクロース〜』が初演を凌いだとすれば、もっとも大きな功労者はトミーだと、実は私は思っている。

告白すると、『サンタクロース〜』のホンで唯一心配だったのが、専制国家エピソードだった。初演の際に唐突感を覚えたからである。なーんかウソ臭い。しかし今回、唐突感はまるでなかった。プロローグのサンタクロース(殺された異国のバイオリニスト)にリアリティがあったからだと思っている。

初演のサンタはいかにも若すぎた。「年の功」の深みを、「年の功」のお手本を、トミーは見せてくれた。真摯に芝居を続けてきたゆえの「年の功」である。

いっちゃん最初の台詞、すっかり五人組になっている「マジ?」が好きだった。あと、トミーの本物のお髭が好き。

旧友トミーに心からの感謝を。

 

千歳。二日目に大トチリをやって、激怒した私は客より先に劇場を出て、家に帰ってしまった。翌日は朝から怒鳴りまくり投げまくりの稽古で、久々に劇場で暴れた。そのせいで公演が終わってから今日までずっと千歳のことを考えている。私は千歳が、なぜか女優達の次に可愛いのだ。ぐだぐだ千歳のことを考えていたから今日まで謝辞が書けなかった。羽生ノートが更新されなかったのは千歳のせいである。

ビックリ仰天なのは千歳の評判が良いことだ。あんな大ポカをやったくせになんてことだ。今回の温太は、千歳の才能である「色気」が上手に醸し出たのだろう。筋トレの効果が一番出ていたのも千歳で、スタイルがシュッとしたせいで衣装がとてもよく似合っていた。登場シーンは、私も毎回ハッとなったくらいである。

それにしても千歳は強くなった。私のダメに、ついにくじけなかった。なのでプッシュアップもくじけず続けてくれることを願う。

好きだった台詞は「八歩もどうぞ。少年も。いっぱいあるから」かな。

千歳、ありがとう。そして、ごめん。「雅兄ィのためじゃない。俺たちは羽生さんのために集まっているんだ」という、打上げの席での嘆きに対して。

 

初演の大きな悔いの一つが卓次のキャスティングだったから、卓次トラウマを昇華させてくれた純一には心からありがとうが言いたい。胸ときめく卓次だった。

13年間、胸が痛くなるほど卓次のことを考えた。卓次をちゃんと舞台の上で見たかった。ホンを書いても目の前にそれが立ち上がらなかったら、私にとっては何の意味もない。私は劇作家になんかなりたくない。立ち上げてなんぼの、私は芝居のホン書きなのだ。

ラストの台詞は別扱いとして置いておく。今回私が好きだったのは、プロローグの「俺?」と、二場の「気を付けた方がいいぞ」である。それと稽古場で増えた「赤い」もだな。あと100回くらい純一の卓次が見たい。

そうそう、私の役者の一人、田川ちかと終演後のロビーでばったり会った。

「じゅんじゅんは玉組に出たときだけかっこいい」

今回の作品でもらったすべての感想の中で、いや、これまでの作品全部を合わせても、最も嬉しい褒め言葉だった。こんなに気持ちの良かったことはない。

 

愛する雅紀。と書いただけで涙が浮かんでくる。クールに別れると決めていたのになかなかそうはいかない。未練がましい女に、しがみつく女に、かっこ悪い女になりたくない。

八歩を、詩人にしてくれてありがとう。まさか「書く作業」を舞台の上で見せてもらえるとは予想していなかった。まるで明治の文豪のように、文机の上に原稿用紙を広げて八歩は、万年筆で、青いインクで詩を書いた。

雅紀との仕事を、『サンタクロース〜』で〆ることができて良かった。私にもう、思い残すことはない。あなたのおかげで私は悔いのない芝居人生を送ることができた。感謝している。

心にひっかかるのはたった一つだけ。雅紀という主演を得たことで私は良い仕事をすることができたが、はたして雅紀にとってはどうだったのだろうと考える。私は雅紀にとって良い演出家だったのだろうか。

しかし今は考えまい。考えると泣けるばかりだ。

最も好きな台詞は「ケンタにしよう。チキンフィレサンド」である。ごめん、私が諦めるのが早かった。もっと粘るべきだった。

でも雅紀、私はあなたが喋った今回の台詞を全部、全部決して忘れない。

私の主演俳優に心からの感謝を。その圧倒的な「才能」と「努力」への敬意とともに。

 

Ericoへの感謝はたったひとつだ。けれどそれは、他へ捧げる100個の感謝より大きい。

Erico、帰ってきてくれてありがとう。

 

今回もまた、多くのスタッフたちのお世話になった。

照明/松本伸一郎、音響/坂田ひろの&松丸恵美、舞台監督/稲毛健一郎、舞監助手/エアポート、舞台美術/向井登子。長い長い付き合いの彼らへの愛は役者らへのそれに勝るとも劣らない。私の芝居はあなた方の才能あってこそである。こうべを垂れて、私のスタッフに愛と感謝を捧げる。その才能と、心意気と、私への愛に対して。

名前をあげて感謝しなければならない方々はたくさんだ。今回は本来こっちが感謝してほしい役者に言わないでもいいありがとうの字数を割き、おかげでスタッフ全員の名前を記すことが出来ない。心からお詫び申し上げたい。あなた方の献身に甘えて、私は劇場で至福の時を過ごせているのだ。ありがとう。

 

ご来場いただいたお客様に心からのお礼を申し上げます。

たくさんの方にほめてもいただき、こんなに幸せだった公演の日々はありません。当日パンフなどに書きましたとおり杉山との別れがありましたので、玉組が今後どのようなことになるのか、私自身が闇の中の状態でございます。

けれど元気なうちは私が芝居と離れることなど想像のほかですので、おそらくなにかしらの形で、みんさんに私の拙いお芝居をお届けできるのではないかと考えております。小さな公演になるかもしれませんが、引き続きのご贔屓を賜りたく、謹んでお願い申し上げます。

ご来場、誠にありがとうございました。

 

そして最後に‥‥‥

うっちぃに変わらぬ愛と感謝をこめて。

カレンダー、売り飛ばしちゃってごめんなさい。

でもあのカレンダー、玉組を最も長く深く愛してくれているファンの手元に行っています。『母方のイトコ』から観ている、ミケのことも大好きなファンよ。

うっちぃ、ありがとう。いつかまた会えるといいな。そのときはまた私を抱きしめてね。

| 羽生まゆみ | サンタクロース イン トーキョー | 05:46 | - | -
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