羽生ノート

羽生一家玉組座長・羽生まゆみが気儘に綴る日々雑感です。
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ウブヲの席

9月17日の羽生ノート。『オジサン・フォー』というタイトルでウブヲのことを書いた。たった3つ前の書き込みである。さあこれから好きな芝居をやるぞと、希望に燃えているウブヲのことを書いたのだ。

ウブヲも希望に燃えていたかもしれないが、私だって燃えていた。50歳以上の男優達を集めて芝居を創るのは面白いと思ったからだ。

すでにオジサン達は私の頭の中で動いていた。山中さんや中村さんには大御所風に出てもらって、ウブヲは狂言回し。あと、現役のソニーはもちろん、トミーや渡辺一哉にオファーをかければ、舞台はかなり充実する。歌の上手い役者がたくさん居る。いやいやいや、めっちゃカッコイイ舞台だ。

だからあのあと一度会ったときに、「ウブオじゃなくて、私のプロデュースでやるよ」と言っておいた。私がやった方がいいと思った。その方が自由に創れて面倒がない。そのくらい私は本気だった。

 

まさかウブヲが死んじゃうなんて。

 

このところウブヲはここ数年で一番元気そうだった。ウブヲが若返って楽しそうだと、まわりで噂し合っていた。

12月5日木曜日の午前中。私は自宅で、例の1003号室兄弟(羽生ノート『大パニック』参照)と一緒に、保険書類に振込先銀行口座を記入したりしていたのだ。

「銀行コードって書いてある。何、これ? 知らん」

1003号室兄が教えてくれた。

「みずほ銀行ならたぶん0001番です」

「ええっ、なんでそんなこと知ってるの?」

「まあ…仕事で」

「金融関係にお勤め?」

なーんてことを呑気にしゃべったりしていたのである。

途中ピロロンとスマホが鳴った。Eメールの着信だ。ふだん24時間マナーモードにしていて気づくのは翌日、なんてことがしょっちゅうなのに、このとき解除していたのは、1003号室兄弟と朝からメールのやり取りをしていたからである。

兄弟が帰った後、そういえばメールが来ていたなと思い出した。陽子さんからだった。件名は「四柳さんのこと」。嫌な予感がした。

 

ウブヲが危篤だという。暗い穴にずーんと落ちた気がした。

陽子さんと話した。彼女は午後一の電車で病院のある飯能に向かうと言う。ウブヲは集中治療室にいるのでたくさんが押し掛けるわけにはいかない。陽子さんが行けるのは、奥様と特別な絆があるからである。わかっていたが、私はどうしても会わないわけにはいかなかった。

森に囲まれた美しい病院にウブヲは居た。奥様は信じられないくらい落ち着いていて、暖かく対応してくださった。私は、押し掛けた非礼を詫びた。

ああウブヲ、どうしてこんなところに寝っ転がっているのだ。顔色は良く、肌のツヤだって申し分ない。この前会った時より白髪混じり髪の毛が伸びていた。

「ウブヲ」と私は言った。もう一度「ウブヲ」と呼び、それから「まゆみだよ」と言った。

するとウブヲが仰天したように身体をよじらせた。私は「あっ」と飛び上がり、陽子さんが「聞こえてる!」と小さく叫んだ。きっと陽子さんも奥様も私とウブヲの強い絆を思ったに違いないが、私にはウブヲがビビッて逃げ出そうとしているように見えた。

私はウブヲの腕をさすりながら、オジサン俳優達を集めた芝居のことをグズグズと喋った。

「ウブヲが居ないとできないよ」

ほとんど愚痴と泣き落としだった。

 

泣き落としでウブヲが起き上がるはずもなかった。

翌朝、訃報を聞いた。やはり陽子さんからである。結局、集中治療室に転がっているウブヲに会えたのは、十月劇場関係者では私だけだった。奇跡のような幸運を、私にウブヲの危篤を知らせてくれた陽子さんに心から感謝したい。

この日はEricoの芝居の初日だった。ウブヲは予約を入れていた。きっと今夜劇場に行くに違いないと思ったら、涙があふれて止まらなくなった。

まりえとKAZUHOにメールを入れて、劇場の片隅にウブヲの席を作ってもらった。

 

ウブヲ、隣の席に座っていたのは、私の娘だよ。

気恥ずかしかったでしょ、と思ったらまた泣けてきた。

 

明日、Ericoや麻理枝と会いにいく。

| 羽生まゆみ | - | 06:43 | - | -
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