羽生ノート

羽生一家玉組座長・羽生まゆみが気儘に綴る日々雑感です。
そろそろ走ろうか(体幹トレ日記80)

今日で5日間まるで運動していない。毎日プッシュアップするとアキとリュウドに約束させられたのだが、まだ一回もやっていない。プッシュアップの態勢にもなっていない。地べたに手をついていない。

やる気はあったのだ。ジムで動こうと思っていた。会員になっているNUSは祝日営業で夜はやっていないから、オアシスに行くつもりだった。でもどうやらフィットネスクラブはどこも申し合わせたように祝日は短縮営業らしい。オアシスは新宿店も青山店も南大沢店もぜーんぶダメ。なんだよっ。

すっかり予定が狂った。というわけでもうどうでもよくなって、毎日知人と連れだってたっぷり外食である。もつ鍋屋、から揚げ専門店と続き、本日は餃子屋さんへ行く約束をしている。タガが外れるとはこういうことを言うのだろう。すでに後ろめたささえ感じなくなっている。

8日にトレーニングが入っている。ちゃんとプッシュアップをしていたか絶対に訊かれるな。つかなくていいウソはなるたけつきたくない性格なので(いい人ぶっているわけじゃないよ。ウソはつく。つくと決めた大ウソは)、こういうときに困る。8日までになんとか一回くらい走ってお茶を濁そう。

 

走るといえばこの頃あまり走っていない。リュウドと最後に走ったのは昨年10月の終わり頃だっただろうか。

前月の9月にヒロと喧嘩に近い言い合いをしたときにリュウドもその場に居て、その際正しく伝わらなかった自分の気持ちをリュウドにはちゃんと説明したくて、実は二人で走るチャンスをうかがっていた。喧嘩のあと本気で退会の決意をしたことや、そのためいくつか受けた体験レッスンのあれこれを面白おかしく話そうと思っていた。機会はなかなかなくて、やっと走ったときはもうそんなことはどうでもよくなっていた。それがあのときだ。坂道ダッシュや階段ダッシュをして楽しかった。

ホント、楽しかったなあ。夏からずーっと鬱屈していて、一週間前スタジオのバーベキュー大会に参加したことも後悔していて、だかららしくないことはやっちゃダメなんだとそれも引きずっていて、そんな中でのランだった。

リュウドは相手の気持ちを引き立てるのが上手い。それもトレーナーとしての技の一つだと言ってしまえばそれまでだが、そもそも相手の心の中を覗く力がなければ技も使えないではないか。

ヒロとバイバイして4日後、初めてリュウドと顔を合わせたときのことはここにも書いた。リュウドはヒロのことにはひと言も触れず、ただ「羽生さん」と私を呼んだ。私はシューズの紐を結ぶふりをしながらそれを聞いていた。顔を上げたら泣きそうだった。

あのときの「羽生さん」を私は一生忘れないだろうと思う。あんな優しい「羽生さん」を、役者の口からだって聞いたことがない。

 

下腹にアメーバがついたからリュウドに叱られるなあなどと考えていたらうっかりリュウド愛がテーマの書き込みになってしまった。ま、いいか。ほんとのことだから。

上野動物園のカバ愛に匹敵する愛をリュウドに捧げる。by羽生。

 

| 羽生まゆみ | 体幹トレ日記 | 01:20 | - | -
連休前、プッシュアップ祭り(体幹トレ日記79)

一日24時間358日くらいマナーモードにしてあるケイタイがブルブルと震えた。めずらしくすぐに気付いたので手に取ると石井匡人と表示されている。あせった。きっとよくないことが起こったに違いない。病気か、はたまたタイホされたか。病気ならほっとく。タイホなら仕方ないのでパンツとセッケン持って面会にいく。

「もしもし」

返事がない。

「もしもしっ! 匡人っ!」

そして気付いた。Cメールだった。

やーな感じがしてしぶしぶ内容をチェックすると、やーな感じどおり芝居のお知らせであった。あやうくケイタイをベランダ越しに投げ飛ばしそうになった。電話しろっ、バカタレが! この私に、羽生さんに、芝居の案内メールなんぞ寄越すんじゃないっ。

年末から一ヶ月以上、Ericoを通して連絡を取ろうとしていたのに無視しまくりで、こんなときだけ、しかもメールかいと思ったら久し振りに鼻を食いちぎりたくなった。食いちぎった鼻をぺっと吐き出して、塩ふって飲み込んでやる。

前にも書いたことがあるが、私たちが最強のタッグコンビだったころ、メールを送って翌日マジ怒りされたことがある。

「俺と羽生さんの間でメールはおかしいだろ」

たしかにおかしい。私はとても恥ずかしかったし後悔もした。「メールではなく喋る」という暗黙の取り決めが存在することを、私はちゃんと知っていたのに。オキテは一度破ったらオシマイなのだ。残念なことだった。私には忘れられない強烈な思い出だ。

今暗黙の取り決めは霧散し、匡人はメールで芝居の案内を寄越す。それが今の「俺と羽生さんの関係」であるということ。淋しいね。

まあよい。時間が取れれば行くよ、匡人。

 

連休前最後のトレーニング。なんと60分のうち50分がプッシュアップというプッシュアップ祭りであった。

1セット10回をリュウドと交代でやっていくのだ。私がやっている間はアキとアッキーラも交えて「ほら、もう肩が上がってる」だの「6回過ぎるとフォームが崩れる」だのこそこそ3人で悪口言いまくりである。私は「悪い見本」かよっ。

時々アキとアッキーラも完璧なフォームで参加した。いちいちドヤ顔で私を見るんじゃないっ。プロなんだからできて当たり前でしょーよ。

途中おっくんが通りかかった。

「すごいなあ羽生さん」

リュウドが言う。

「でもヘタですから」

余計なこと言うな。

「そうかなあ。できてるように見えるけどなあ」

でっしょーォ?

ツッチーも通りかかった。

「イケメン三人がかりでいいね」

這いつくばったまま言い返す。

「ちっとも、九! よくない、十っ!」

もう途中から何セットやったかわからなくなった。終わってから「15セットはやったよね」とリュウドに訊いたら「もっとやってる」とのこと。20セット? 200回やればたいしたものだ。なんでダメだダメだと言われるのかまったくわからない。

 

残りの時間はノンストップのスクワット。30圓離弌璽戰詛愽蕕辰銅景間、ひたすら頑張った。

次まで7日間開く。お正月じゃないから食べ過ぎることはないと思うが、しかし心配である。

| 羽生まゆみ | 体幹トレ日記 | 14:54 | - | -
マハトマ・ガンジー(体幹トレ日記78)

暖かくなってきたせいか気分は晴れやかだ。カバも観たし。そして運動をするとますます元気になる。

今日はトレーニング中二回トイレに駆け込んでオエオエした。普段はオエオエだけでおさまるが、今日二回目は少し出た。こんなにオエオエしながらどうしてトレーニングが楽しいのかわからない。

ミット打ちとトレッドのサーキットだったからかなり堪えた。トレッドは傾斜をつけられると息も絶え絶えになる。箱根を涼しい顔で走る山の神たちは本当にすごいと思う。私なんぞ坂道は一分半で限界だ。一分半なんて、冷たいご飯をチンするときはあっという間だが、勝手に動く坂道を全力で走るときはとんでもなく長い。

だからわめく。

「止めて!」

「止めるわけないでしょ」

回し車を全力で走る、私はハムスターである。

リュウドの檄が飛ぶ。

「一分四十秒までっ。残り十秒!」

「ウゲゲーッ!」

なんだよっ、一分半て言ったじゃん! と言い返したいが息も絶え絶えなので台詞が長すぎて言い返せない。

「死ぬっ!」

が精一杯である。

「死なないよ」

私を指導しているときのリュウドが恐ろしいとかで、他の会員に避けられているらしい。

「怖〜い。リュウドさんは私には無理」

冗談じゃない。他の会員にもきっちりハムスターをやらせてほしい。

 

今日は久しぶりに女性トレーナーのチアキさんに会えた。彼女は現在秋田在住で、ときどき上京してトレーナーのお仕事をしている。小学生のお子さんがいるママだから『サンタクロース〜』をぜひ観てもらいたいのだが無理かなあ。この前の『狐の姫〜』はちょうど骨折治療中でやっぱり観てもらえなかった。

トレーニングが終わりシャワーを浴びて、プロテインをいただきながらロビーでゆっくりした。めずらしく他に会員の姿はなく、トレーナーたちと他愛もないおしゃべりをして楽しかった。チアキさんがカウンターの中、カウンターの横にアッキーラが立ち、リュウドが王様椅子にゆったりと身を沈めている。スツールが私の場所。

この頃、私の独占の時間であったはずの土日のラストが取れなくなっていて、代わりに平日の明るい時間にトレーニングすることがちょいちょいある。

最初はかなりワガママな文句を言っていた。

「土日ラストは他の人をブロックして私を入れて。私を特別扱いしてっ」

だが平等が大好きなアキにきっぱり断られた。

「みんな平等です」

ふん、平等なもんか。とっても不平等だ。

だが私の理屈は通じず、しかしいったんあきらめると明るい時間のトレーニングも少しずつ楽しくなってきた。特にこんな気持ちのよい春の日の午後は。

 

開け放したスタジオのドアを抜けて心地良い午後の風が入ってくる。

みんなの顔を一人一人ながめながら、私はみんなのことを何も知らないと気づく。でも知らなくていいのだ。充実したトレーニングと、皆で過ごすこのひとときさえあれば。

「僕は非暴力主義者です。マハトマ・ガンジーです」

アッキーラの口から突然ガンジーが出てきてビックリする。プロテインにむせそうになる。

みんな、笑う。

私はアッキーラに「愛してるわよ」と言いたくなって、我慢する。

 

| 羽生まゆみ | 体幹トレ日記 | 00:02 | - | -
悪口ファイル(体幹トレ日記77)

前回のブログを書き終わってからトレーニングへ。

この日の担当はアッキーラであった。さっそく前日の一件を愚痴がてら報告する。

「昨日、体験レッスンあったでしょ? 私、その体験の子よりダメらしいよ」

「そういえば(カルテに)動けるって書いてありましたね」

「え? 」

念のためにもう一回訊いた。

「なんて?」

「動ける」

「‥‥‥」

もはやアッキーラの台詞は耳に入らぬ。ショックだ。私が『悪口ファイル』と呼んでいる個人別カルテに、「動ける」とほめてあったらしい。

く、く、くやしーーーっ!

悔しかったのでこの日は頑張った。チンニング、プッシュアップ、キックにパンチetc.  怒りで乗り切った。

終わってロビーでプロテインをいただきながらアッキーラに訊いた。

「私の体験レッスン、カルテに何て書いてある?」

アッキーラはカルテをぱらぱらめくりながら、

「担当は誰だったんですか?」

「ヒロさん」

心の傷口が少し開いた。

「『やる気はある』って書いてありますね」

笑った。そうか。ギリギリほめてあった。

やる気はある‥‥これこそ私だ。今日まで続くやる気が、体験を受けたこの日から始まったのだ。

やる気はの「は」が言外に悪口を匂わせているが、まあいい。

体験レッスンの光景があまりよく思い出せない。人見知りなので緊張していたのだろう。

私の記憶にあるヒロとのいっちゃん最初の光景は腹筋トレだ。それが体験のときだったかはわからない。膝を立てて寝転がった私に片手を差し出して、つかまるようにと言った。(つかまった手を支えにして上がったり下がったりするのだ。)

私は手にたくさん汗をかいていて申し訳なかったから、何度も手をウエアにこすりつけて拭おうとした。すると、

「汗なんか気にしなくていい」

厳しい顔と口調を覚えている。

そうか、気にしなくていいんだと私は思った。気が楽になった。私は無駄に気を遣う性格だからね。

覚えているのはそこまでだ。それから腹筋をやったはずだがまるで思い出せない。

なんてことを考えていたら、マズイ、また心の傷が広がった。

急いで話を変える。

「どうせ私のカルテ、悪口しか書いていないんでしょ」

アッキーラは顔に悪い笑みを浮かべながらカルテを調べた。

「×と△ばっかりですね。○はないです」

×と△って‥‥答案用紙かよ。採点していないで言葉で記入しろっつーの。たぶんみんな語彙の蓄積が足りなくて文章を書くのが面倒なのだろう。

「『トレーニング中トイレに行った』って書いてあります」

どうでもいいようなことは文章にしてある。バカだ。

 

いつかカルテをひったくって全部に目を通したい気もするが、どうせ×や△ばかりじゃなんのことだかわからない。ここに体幹トレ日記を書いておいて本当によかった。記憶をたどるよすがになる。

記憶はいつしか薄れていく。ヒロとの日々もいつか忘れてしまうのだろうか。

ユーキとの日々は残り3回分くらいしか思い出せない。

 

| 羽生まゆみ | 体幹トレ日記 | 22:43 | - | -
負けず嫌い(体幹トレ日記76)

アキ担当のトレーニング中に、不貞腐れそうになった。

「体験レッスンの女の子よりできていない」

と言われたからである。

アキは私がデキル人ぶっているのが鼻につくらしく、ちょいちょい私の鼻をへし折ってくれる。

その体験の子が顔も知らない相手ならよかったのだが、たまたま入会説明を受けている場に私もおり、彼女が帰る際には「お疲れさまーァ」と余裕の挨拶までしていたのでさあ大変。悔しいったらありゃしない。

「そんなにできる子なの?」

私が訊いたらリュウドまで、

「バレーボールやっていたから」

私のご機嫌が悪くなるのを承知でこの言いようである。わざとだ。絶対わざとだ。

子供を育てるときは他の子と比べてはいけないということを知らないのか。あやうく不良になりかけたが「喜怒哀楽を出し過ぎると負ける」という横綱稀勢の里の言葉を思い出してなんとか冷静になった。そして10圓離廛譟璽箸鯑上高く掲げてランジウォークをする私であった。負けるもんかっ。

でも不貞腐れたい。今後しばらく、「できていない」と言われたら「私、バレーやっていなかったから。演劇部だから」と言い返す日々が続くと思う。

 

メンタルが弱いから帰宅の電車の中でずっとへこたれていた。体験の子よりダメだとしたら、いったい私はこの2年半、何をやっていたのだということになる。

しかし10圓離廛譟璽箸鯑の上に抱えて歩く人がどのくらいいるだろうと考えたときに、そうたくさんいるとも思えず、多くの人が10垰ち上げずに生きているのだと思うと優越感に少し気持ちが楽になった。

もっともほとんどの人が持ち上げたくもないだろうから優越にあまり意味はない。

ま、いいや。うだうだ考えるのはよそう。

「うちは体幹トレーニングのスタジオなのにまったく体幹がダメ」

アキの言うとおりだ。私はぽけっとしていた。生ぬるかった。鍛えるぞ、体幹!

 

| 羽生まゆみ | 体幹トレ日記 | 20:22 | - | -
春だ(体幹トレ日記75)

イッチーが私のファンだと言う。芝居関係ではいっこうにファンが増えないが、スタジオ関係では着実にファンを獲得しつつある。

嬉しかったのでアッキーラに訊いた。

「私が可愛いからかなあ」

アッキーラはめんどくさそうに答えた。

「羽生さんの年でこんなきついことやっている人が全国でも珍しいからじゃないですか」

私が珍しい生き物ってか。ふん、私はダイオウイカじゃないぞ。

まあいいや。「全国でも」が面白かったので許してあげる。アッキーラは蓄積している語彙が少ないぶん、面白い単語の使い方をして私を喜ばせるのだ。間違っているわけではないのだがなーんか微妙ってところが好き。

入会してまだ間もないイッチーのトレーニングを何回か拝見した。いつも「無理〜イ」と高い声音でわめいているので、2丁目のオネエサン系おじさんだと思っていたら、外資系の会社にお勤めするデキル37才と聞いてびっくりした。

37才! 私が得意とする年頃だ。まさかここを読むこともないと思うから書くが、シルエットからオジサンだと想像していたのである。この前ロビーで会って初めてアップで見たら確かに若かった。シルエットって大事。そのシルエットをなんとかするために入会したのだろう。頑張れ、イッチー。私も入会した当時のシルエットはイグアナだった。

 

もちろん今だって完全にイグアナから脱したわけではない。下腹のアメーバはいまだくっついたままである。取れん。

前回は身体をゴム紐で引っ張られる変態プレイトレーニングであった。腰にベルト状のものを巻かれ、そこからゴム紐が伸びている。そのゴム紐をリュウドが引っぱったり緩めたりしながら私をもてあそぶトレーニングである。トレーニング自体も屈辱的だが、ベルトの上にブニョッとはみ出たアメーバがほんと情けなかった。

そこは見ないようにして頑張った。この頃わりと調子が良い。気合いも入っているし楽しい。なのでトレーニングもだんだんきつめになってきた。この間はいよいよベンチで50圓鮖たせてくれたよ。胸から7冑發い燭世韻世辰拭

 

さあ、春だ。

昨年5月の公演でKAZUHOにもらった胡蝶蘭が再び花を咲かせ、プランターの椿が大量に蕾をつけ、ヒヨドリがミカンを食べにやってくる。

気持ちを、明るく持ち続けたい。

 

| 羽生まゆみ | 体幹トレ日記 | 06:46 | - | -
スランプを抜ける(体幹トレ日記74)

朝、トレーニングへ出かけようとしていたところに、Ericoから電話がかかってきた。歌舞伎座のチケットがあるが今日時間はあるかと言う。喜びで身体が10僂らい浮いた。

「行く!」

時間なんぞ、なくても作る。なにしろ本日の歌舞伎座ということは、中村屋の御曹司兄弟が出演する舞台ではないか。日本中の歌舞伎ファンが喉手のチケットなのである。

やばい、絶対泣く。2月に入ってから兄弟の初舞台のことを考えただけで涙ぐんでいた。ポケットにハンカチが入っているかチェックし、それからほっぺたにチークシャドウを塗りつけた。せっかく歌舞伎座に行くのにオシャレなお洋服に着替えるヒマがなく、せめて塗りつけておこうと思ったのだ。

 

それにしてもやばいぞ。トレーニング終了から開演時間まで約3時間。体力の回復が図れるだろうか。観劇中に落ちてしまったら元も子もない。

このごろ調子が上がってきたのでトレーニングもきつめになってきた。なので疲れる。相変わらずトレーナー達には「弱音ばかり吐く」と叱られるがそんなことはない。一時に比べるとかなりやる気を取り戻しつつある。

先月は身体も心も調子があんまりよくなかった。環境の変化に気持ちがついていけなかったのだと思う。調子が悪すぎて、若いアッキーラにさえ「今はスランプと考えればいいんです」と励まされたくらいだ。

そう、スランプは誰にでもある。そしていつか脱する。

この頃は久しぶりにサーキットが復活したし、重たいものをたくさん抱えているし、ベーシックスリーという専門用語を覚えて使いまくっている。(ちなみにベーシックスリーとは、ベンチプレス、スクワット、デッドリフトのこと)

今日も楽しかった。本日はプランク祭りだった。足に重りを巻かれた上でいろんなバージョンのプランクをやった。

途中リュウドにほっぺたが赤いことを見破られた。

「赤い。チーク塗ってきたの?」

「うん」

ケタケタ笑っていた。

それから、初ものの種目で顔も知らない相手と競争した。

「昨日31才の男性会員に同じ種目をやらせたけどできなかった」

リュウドがこんなことを言って私の心に火を点けたのだ。

「おーっし、やってやる!」

そしてぐったり疲れた。自爆である。もうっ、今日はなるたけ疲れないようにしようと思ったのに。

この話をEricoにしたら、

「知らない人と戦ったんですか?」

「うん、31才でムキムキという情報しかない」

「本当に羽生さんは戦うのが好きですよね」

「好き」

 

で、歌舞伎座ではずっと泣いていた。詳しいことを書こうとするとまた泣きそうになるので書かない。

舞台に、亡くなった勘三郎の姿が見えた気がした。

 

| 羽生まゆみ | 体幹トレ日記 | 03:30 | - | -
惜しまないままに◆並隆乾肇貽記73)

私は大丈夫だった。へこたれていなかった。怒っていたからだ。私はいつも悲しみを怒りに変化させることで自分のガラスの心臓を守ってきた。今回もそうするつもりだった。

25日はアッキーラと元気にトレーニングし、昨日ここへ書き込んだように、その後クリパを楽しんだ。ノブちゃんは大人で頭が良く、そしてヒロの件を知っても笑顔だったので、私のガラスの心臓はおおいに力づけられた。

正直言えば、私はヒロの退社理由をまったく信じていなかった。持病があることは知っていたし、それが退社の理由の一つであることは確かだろう。

しかし、ヒロの言う「突然倒れたらみんなに迷惑をかけるから」も、オーナーの言う「休むように言ってもここに居たら無理して働いてしまうから」も、私にはてんで説得力がなかった。

矛盾点はいくらでもあった。ヒロには「こんなやめ方をしたら、それこそみんなに迷惑をかけるだろう」と言いたいし、オーナーには「あなたは病気のヒロを見捨てる気か。近くに置いて見張っているべきではないのか」と言いたかった。

綺麗な言葉をそのまま信じるほど、私はうぶでも良い人でもない。私が聞きたいのは綺麗事ではなく汚い事だ。でもどうせ教えてはもらえない。羽生さんはスタジオの会員であって友達ではないと二人は口をそろえて言うだろう。友達ではない? そうだろうか。ヒロ、あなたがなんと言おうと、私はあなたが友達だったと思っている。あなたとオーナーを同志だと信じてきたように。

出過ぎたことを言っている。他人の私などにはわからない彼らだけの深遠な退社事情があるのだろう。

ふん、もう知るもんか。勝手にするがよい。

 

27日まで無事に過ぎた。気合いが入っていた。

27日は夕方からトレーニングがある。リュウドとアキに会いたいと思った。思ったら元気が出た。

やっと夕方になって、リュックを背負ってさっそうとスタジオへ向かった。

そして脇道からスタジオのある商店街に出たとき、それは突然やってきた。感傷が、雪崩を打って私に襲いかかってきたのである。あせった。一度堰を切ったらとんでもないことになる。私はくるりと後ろを向き、スタジオの方は見ないようにしながら何度も深呼吸を繰り返した。

コバエのようにブンブンまとわりつく感傷を振り払いながらスタジオに入ると、リュウドとアキはトレーニング中だった。会員証をカウンターに置いたそのとき、そこに貼られた店長退社の貼り紙に気付いた。

愕然となった。私なんぞまだマシだった。多くの会員は別れを惜しむどころかサヨナラも言えず、こんな紙切れ1枚で納得するしかないのだ。なんてことだ。

仕事中のリュウドとアキに挨拶しながら更衣室に入り、涙の出かかっていた自分の目を鏡越しに睨みつけてやった。大丈夫。今日も私はかっこいい。

着替えてロビーへ行くと、リュウドがカウンターに居た。彼は悪戯っぽく笑いながら、「羽生さん」と、違う言い方で3度私を呼んだ。私はそのたびに「何よ」と答えた。また泣きそうになった。

ああ、私は年が半分のこの青年の親切に、今日までどれだけ支えられてきただろう。そして今もまた支えられようとしている。

リュウドは言った。

「入れるときは、羽生さんは全部俺が入りますから」

私は言った。

「約束しない方がいいよ。リュウドも私もつらいことになるから」

リュウドは可笑しそうに笑った。

「言ったでしょ。入れるときはって」

打てば響くように言葉が返ってくる。私たちは、友達だ。

 

ヒロ。

あなたが望まなかった別れの感傷だから、私もまた望まない。惜しめなかった別れを、ただ淋しく思うだけだ。

感謝を含めて思うところはたくさんある。だがまだここには書けない。

いつか、ここに書けるようになったら、そしたら死ぬほどたくさんの悪口を書いてやる。

あなたが大嫌いだった。私が出会った、あなたは第三人目の性格破綻者だ。

それでも、あなたが好きだった。私は性格破綻者が嫌いじゃないのだ。

 

サヨナラ、私のモヒカントレーナー。

 

| 羽生まゆみ | 体幹トレ日記 | 03:24 | - | -
惜しまないままに 並隆乾肇貽記72)

25日。トレーニングが終わった頃、ご近所に住む会員のノブちゃんが一羽丸ごと、手作りのローストチキンを持って来てくれて、アッキーラ、オーナー、ノブちゃん、私の4人で思いもかけぬクリパとあいなった。私は一日最後の客であることが多いから、時々こんな役得に恵まれる。

柔らかくて香りが良くて、これまで食べた中で最も美味しいローストチキンだった。お料理教室で作ったのだそうだ。デパ地下で買ったものとは全然違う。本当に美味しかった。ごちそうさま、ノブちゃん。

この席でオーナーが、何気なくノブちゃんに悲しいお知らせを発表した。

発表しているあいだ、私はお皿の中のチキンと格闘しているふりをした。アッキーラも格闘していた。

オーナーは言った。

「ヒロさんが昨日で退職したから」

ノブちゃんはびっくり仰天だった。

「ええーっ、なぜ? 店長なのに?」

まったくだ。店長なのに。

そのあとはパーティの間じゅう、故人を偲ぶようにヒロを偲んだ。彼の天才をみんなで思った。

それからノンアルのシャンパンに酔ってテンションが高くなっていた私は、オーナーを差し置いてアッキーラにきっちり説教した。

「ここで会員が減ったら、それはヒロのせいではない。残されたあなた達トレーナーのせいである」

私は怒っていた。ヒロに、オーナーに、なぜか自分自身に。

 

私が知ったのは二日前の23日。祝日の、この日も私は最後の客だった。

着替えてロビーに行くとオーナーが居た。それからヒロが笑顔でやってきてオーナーの隣りに立った。

ヒロは言った。

「羽生さんにお知らせがある」

ぞっとした私は急いで言った。

「嫌なお知らせなら聞きたくない」

「嫌なお知らせ」

私はいよいよクビになるのだと思った。もしくはリュウドがやめるのか。考えられるのはその二つだ。

「イヤだ。聞きたくない」

「羽生さんが最後のトレーニング。俺、今日でやめるから」

「え?」

意味がわからない。

「体調がよくない。ドクターストップがかかったので静養する」

仰天した。

「あなた、私より先に死ぬの?」

二人が同時に「それはない」と言った。ヒロは笑いながら。オーナーは真面目に。

当然ながら私は大騒ぎしたが、これが最後のトレーニングになるなら一分でも時間が惜しいと思い、取り直せない気を取り直し、言われるがままに走り、ミットを叩き、それからバーベルを持ち上げた。トレーニングの間じゅう、何がおかしいのか彼はずっと私の顔を見ながら笑っていた。ケラケラと声を漏らして笑うことさえあった。

トレーニングが終わりいつものようにお礼を言おうとすると、

「早く着替えてこい」

私にぽいとバスタオルを渡してロビーへ行ってしまった。

シャワーのあと私がロビーへ行くと、今度は更衣室の掃除に行ってしまった。なによっ、今掃除なんかしている場合かよ! どうやら私としみじみ別れを惜しむ気はないらしい。

オーナーは何も言わなかった。ただそこに居るだけだった。何もしなかった。私は冷蔵庫の野菜室で忘れられている、余った野沢菜みたいに怒っていた。萎えた身体で怒っていた。

帰宅し、少し考えてからリュウドに電話をした。

リュウドがこの件を知らないはずがない。けれどもし知らないのだとしたら、私はリュウドには知らせておくべきだと思った。それが大人ってもんである。リュウドがちゃんと考える時間と余裕を持てるように。惜しむことができるように。私のようにあわあわしなくてすむように。ヒロに、言うべき言葉を見つけられるように。見つけるヒマもなかった私のようにならないために。

 

電話は通じなかった。あとでわかるのだが、リュウドは知らなかった。スタッフは翌日、24日に知ることになる。

 

| 羽生まゆみ | 体幹トレ日記 | 23:27 | - | -
アッキーラと二人きり(体幹トレ日記71)

先だっては久し振りに20才トレーナーのアッキーラが担当だった。

前日モヒカントレーナーから「明日はアッキーラと走れ」と言われていたのですっかり外を走るのだと思い込んでいた。ところが走らないと言う。

私は文句を言った。

「だってラン用のお衣装しか持ってきていないよ」

アッキーラはちょっと困った顔をした。私のご機嫌が悪くなるのを警戒したものとみえる。私のご機嫌はごくたまにだが悪くなることがあり、その日がちょいちょいアッキーラに当たる。

前夜はアレ着たりコレ着たりのファッションショーだった。ランにはランの、筋トレには筋トレのお衣装がある。トレーニングというのは私にとっては未知の世界だったので、最初のうちは何を着ればいいのかよくわからなかった。今は『Tarzan』で勉強したのでわかっている。(もうちっとお尻がぴんとしていたらスパッツ系のボトムにしたいところだが、さすがにそこまでずうずうしくはない。)

トレーニングのお衣装は細身でむき出し。これに尽きる。一方、冬のラン衣装は露出度が少ない。Tシャツタイプである。

で、トレーニングが始まると私のテンションは早くも下降ぎみである。

「こんなお衣装じゃやる気が出ない」

するとすかさずアッキーラは言った。

「大丈夫です。今日は鏡見てるヒマはありませんから」

おおっ、言ったよ。私のやる気に俄然火がつく。

モヒカントレーナー以外とミット打ちをやったのも初めてである。神の左、悪魔の右と言われる私の強烈なパンチに耐えられるかと心配になった。

1セット終わったところで私は訊いた。なにしろほら、悪魔の右だから。

「大丈夫? お手々痛くない?」

「全然。痛くなりたいくらいです」

このように羽生さん相手にけっこう言うようになったアッキーラであった。

あれもやった。私がいっちゃん嫌いなやつ。スケートボード。どんな種目かというと、ツルツル滑るシートの上をスピードスケーターのように腰を落として右へ左へと滑るのである。言葉で説明すると簡単そうだがこれがものすごくきつい。テニスの錦織くんがやっているのをTVで観たことがある。お尻と太腿を鍛える。心拍も上がる。ホント、嫌い。スタジオへ入ったときにこのシートが広げられているのを見るとゲロ〜ンと心が沈む。

この日も上手にできなくてアッキーラにすぐ諦められた。

「羽生さんできないから卒業にします」

そしてシートをくるくる巻き始めた。

私は言った。

「中退だね」

余談だが、こんなふざけたことをモヒカントレーナーに言うのは危険である。怒りスイッチを押すことにもなりかねない。巻き始めたシートをもういっぺん広げられてしまうだろう。

もちろんアッキーラは怒らず笑ってくれた。

最後にベンチをやりたいと言ったら、

「(羽生さんが嫌いな)有酸素を早めに切り上げたいからでしょ。ダメです」

見抜かれている。

でも結局やってくれたよ。

 

あー楽しかった。やっぱり私はトレーニングが好きだ。

プロテインをいただきながら少し話した。

「羽生さんが(一日の)最後だとやっぱりいいですね」

そう言ってアッキーラはおおらかに笑った。

 

| 羽生まゆみ | 体幹トレ日記 | 02:12 | - | -
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